植物の茎や根などの器官が外部の刺激に対してある一定の方向に屈曲する性質を言う.一方,刺激の方向に関係なく,器官の構造によって屈曲の方向が決まっている性質は傾性と呼ぶ.屈性は,屈曲の方向によって区別され,刺激源の方向に屈曲することを正の屈性,一方,反対方向に屈曲することを負の屈性と言う.また,刺激の種類には,重力,光,水分,接触,化学物質などがあり,それぞれ,重力屈性,光屈性,水分屈性,接触屈性,化学屈性と呼ぶ.一般に,屈曲は,刺激源に向いている側とその反対側での組織の成長速度の差(偏差成長)によって起こる.
重力屈性では,茎の内皮細胞や根の根冠のコルメラ細胞が重力方向を感受する細胞(平衡細胞)であり,これらの細胞内には大きなデンプン粒を含む色素体であるアミロプラストが存在する.アミロプラストが平衡石として働き,重力方向に沈降することで,重力の方向を感受し,主茎は重力と反対方向に,また,主根は重力方向に屈曲する.一方,光屈性では,青色光の光受容体であるフォトトロピンで光の方向を感受し,主茎が青色光を含む光の方向に屈曲する.また,重力屈性や光屈性などにおける茎や根などの屈曲には,植物ホルモンのひとつであるオーキシンの偏差分布が関与している.細胞膜には,オーキシンを細胞内に取り込む輸送体(輸送タンパク質)と細胞外に排出する輸送体があり,オーキシンは細胞内への取り込みと細胞外への排出の繰り返しによって,細胞から細胞へと方向性を持って運ばれていく(極性移動).オーキシンの排出方向は,オーキシンを排出する輸送体が,それぞれの細胞において,どの方向の細胞膜に分布するかによって決まっている.主茎と主根の重力屈性では,オーキシンを排出する輸送体が重力側(下側)に多く分布することにより,反重力側(上側)と比べて,下側のオーキシンの濃度が高くなる.茎と根では伸長成長に対するオーキシンの最適濃度が異なっており,主茎では下側の組織の伸長成長がオーキシンにより促進され上側に屈曲するが,主根では下側の組織の伸長成長がオーキシンにより抑制され下側に屈曲する.主茎の光屈性では,オーキシンを排出する輸送体が陰側に多く分布することにより,光側と比べて陰側のオーキシンの濃度が高くなり,陰側の組織の伸長成長が促進され,光の方向に屈曲する.
茎や根などの器官の長軸と刺激の方向が平行になる場合を正常屈性といい,ある角度を保つ場合を傾斜屈性,垂直になる場合を側面屈性と言う.たとえば,重力屈性では,主茎は重力と反対方向(上方向)に,主根は重力方向(下方向)に屈曲する正常重力屈性を示す.一方,側枝と側根は,それぞれ斜め上方向と下方向へと重力方向とある一定角度を保って伸長する傾斜重力屈性を示す.また,イチゴやシバなどの匍匐枝(匍匐茎,ランナー)は,重力方向と直交する方向に伸長する側面重力屈性を示す.器官の屈曲方向が成長段階によって変わるものもある.たとえば,水面に浮かんで生育するホテイアオイの花茎は,開花までは上方向に成長しているが,開花後に水面方向に屈曲して伸長し,やがて水没する.また,ラッカセイでは,開花後に子房柄が下方向に伸長して地中に潜り結実する.