同化の反応経路のうち,無機化合物から炭素を有機化合物に取り込むものを,炭酸同化または炭素同化と言う.特定の元素を有機化合物に取り込む同化経路は,一般にその元素の名称を同化に冠して呼ぶ(例えば窒素同化や硫黄同化)ので,それに倣えば炭素同化とすべきところであるが,炭素同化の基質となる二酸化炭素(CO2)を炭酸ガスと呼んでいた名残りから,今でも炭酸同化の語が広く使われている.
光合成では,光化学系が光のエネルギーを使ってNADPHとATPを生成し,生成したNADPHとATPを使ってカルビン回路が炭酸同化を行う.その中で鍵を握るのは,リブロース-1,5-ビスリン酸(RuBP)カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ(略称:ルビスコ)がカルボキシラーゼとして働き,1分子のCO2と1分子のRuBPから2分子のホスホグリセリン酸(PGA)をつくる反応段階であり,これによって正に炭素が有機物に組み込まれる.多くの植物は,外界から吸収したCO2を直接ルビスコでカルビン回路に取り入れている.CO2がPGAという炭素3つの化合物(C3化合物)に固定されることから,このような植物をC3植物と言う.
ルビスコは,カルボキシラーゼ反応の一方で,オキシゲナーゼとして酸素(O2)とリブロース-1,5-ビスリン酸との反応も触媒する.乾燥した環境で気孔を十分に開けないなど,葉内CO2濃度が低くなってしまうような状況の下では,オキシゲナーゼ反応が優先し,炭酸同化の効率が低下する.また温度が高く光が強い環境では,葉内CO2濃度の不足に加えて,高温それ自体もオキシゲナーゼ反応を優越させ炭酸同化の効率を落とす要因となる.この問題を回避するために,C4植物と呼ばれる植物群やベンケイソウ型酸代謝(CAM)植物と呼ばれる植物群は,CO2の炭素をC4化合物に固定する反応を利用している.この反応は,ルビスコではなく,ホスホエノールピルビン酸(PEP)カルボキシラーゼという酵素に触媒され,CO2濃度が低いときにも効率よく進む.これらの植物では,一旦C4化合物に固定した炭素を後でCO2として取り出して,改めてルビスコの作用によりカルビン回路に取り入れる,という2段階で炭酸同化を行なっている.C4植物はこの2段階を維管束鞘細胞と葉肉細胞とに,つまり空間的に分離しており,CAM植物は夜と昼とに,つまり時間的に分離している.